第35回 書物の文化史〜書物探究〜文字・印刷・装丁の歴史と多様性

<古代の印字法と紙以外の素材>
押印法 (おういんほう)
  紀元前5000年頃 メソポタミア、エジプトで行われた。石などで作った中空円筒の周囲に文字や絵を刻み、粘土版に押し付けて回転させて転写する。この円筒のことをシリンダーという。
捺染法 (なっせんほう)
  木や金属に模様の型を掘り込み、あるいは陶器にもりあげてやきこんで、布に植物染料をもちいて押し刷りする。木版印刷の源流。
摺拓法 (しゅうたくほう)
  石刷り、今の拓本のこと。石板に文字や絵を彫り、濡らした紙を当て、凹刻した文面に食いこませておいて、綿を布などでまるく包んだタンポに墨をつけ、石面をこすって拓本をとる。
粘土版文書 (ねんどばんもんじょ)
  クレー・タブレットといわれるが、泥板文書、瓦書などともいう。古代メソポタミア地方では、沖積土を練固めて粘土板をつくり、これにアシの茎などでつくったペンで楔形文字を記して書写の材料とした。粘土板は陽光で乾かし、さらに堅くするときは窯で焼いた。これが粘土版文書である。
パピルス
  古代エジプトでは、ナイル川のほとりに茂っていたパピルスという水草の茎を刈りとり、内側の髄を薄くさき、縦横に重ねあわせ、上から圧力を加えて書写の材料とした。英語のペーパー(paper)はこの「パピルス」(Papyrusu)を語源とする。パピルス紙にも種類があり、髄の中心部でつくったのが最上級品で、エジプト人はこれを「聖なる紙(hieratica)」と呼び、宗教上の本のみに用いた。
羊皮紙 (ようひし)
  仔羊や羊、稀には山羊の皮をなめして作られた書写または製本の材料。2世紀頃から小アジア、ヨーロッパで書写材料としてパピルスにとってかわって使用されるようになった。紀元前2世紀頃、エジプトからパピルス輸入を封じられたペルガモン王エウメネス2世が対抗策として発明したといわれ、パーチメント(Parchment)の呼び名はペルガモンの地名に由来する。仔牛の皮を用いた犢皮紙をヴェラム(Vellum)といったが、後に区別なく使われるようになり、羊皮紙のうち上質のものをヴェラムと呼ぶことが多い。
貝多羅葉本 (ばいたらようほん)
  インド周辺や東南アジアの動物を神聖なものとしている地域では、動物の皮で書物をつくることは行われなかった。代わりにこれらの地方では、多羅木とよばれるシュロ科の植物の葉を適当な大きさに切り、その上に経文などを記して何枚も重ね、上下に木版等をあてて両端をひもでとじた書物がつくられた。貝多羅とは「木の葉」のことである。
   
1. シュメールの楔形文字が刻まれた粘土板の行政文書 Example of a sumerian cuneiform administrative record, on clay
  メソポタミア 初期王朝時代
  紀元前27002500年頃 1 粘土
  大麦の受領書で、受取人の名も記されている。
2. 新シュメールの楔形文字が刻まれた粘土円錐 Example of a Neo-Sumerian cuneiform dedicatory inscription written on clay in the form of a thick cone or nail
   
  紀元前2120年頃 1 粘土
   
  新シュメールの楔形文字の例。太い円錐の粘土に刻まれた奉献文。
 
3. 古バビロニア語の楔形文字入り円筒印章 Example of an Old Babylonian cylinder seal with cuneiform inscription in Old Babylonian
  南メソポタミア 古バビロニア時代
  紀元前19001600年頃 1  
   
  二人の人物が向かい合って立っている姿が描かれており、両者とも襞飾りのついた丈の長い衣をまとっている。一方の人物は片手を伸ばしており、もう一方の人物は片手を挙げ、反対の手を腰に当てている。かつての所有者を示す楔形文字の碑文が3行にわたって記されている。
4. エジプト象形文字の例 Example of Egyptian Hieroglyphic writing on papyrus
  エジプト 新王国時代
  紀元前1200〜紀元2世紀頃 1 パピルス
   
  『エジプト死者の書』断片で、来世のための呪文が書かれている。
5. エジプト神官文字の例 Example of Egyptian Hieratic writing on linen
  エジプト メンフィスまたはファユーム
  紀元前4世紀〜紀元2世紀頃 1 亜麻布
   
  亜麻布に書かれた神官文字の例。神官文字は、象形文字を簡略化したもので、神官らが記録を取るのに用いた。この布片は『エジプト死者の書』からの文言を含んでいる。
6. エジプト民衆文字の例 Example of Egyptian Demotic writing on papyrus
  エジプト
  紀元前7世紀〜紀元2世紀頃 1 パピルス
   
  神官文字をさらに簡略化した民衆文字でパピルスに書かれた商業文書の断片。
7. コプト文字の例 Example of Coptic writing on papyrus
  エジプト
  47世紀頃 1 パピルス
   
  コプト文字でパピルスに書かれた商業文書の断片。コプト語は古代エジプト語から派生した言語だが、現在ではほとんど使われていない。
8. ギリシア語の例 Example of Greek writing on papyrus
  エジプト
  26世紀頃 1 パピルス
   
  パピルスに筆記体のギリシア文字で書かれた商業文書の断片。
 
9. アラム語の例 Example of Aramaic writing on lead
  シリア
  13世紀 1
   
  イエスの時代に聖地エルサレムの民衆の言葉であったアラム語を用いて鉛に記された呪術文書。
10. ブラーフミー文字の例 Example of Brahmi writing on palm leaf
  バーミヤン
  25世紀 1 Palm Leaf (貝葉資料)
   
  後の多くのインド文字の基礎となったブラーフミー文字で書かれた、仏教文書の断片。
11. 教父時代の文書から採られたカロリング朝後期の文字例 Example of Late Carolingian script in Latin, on vellum, from a religious document
  ドイツ
  10世紀 1 ヴェラム
   
   
12. シトー修道会の筆写体 Example of a fine Cistercian Romanesque script in Latin, on vellum
  フランス ブルゴーニュ シトー修道院
  1150年頃 1 ヴェラム
   
  ヴェラムにシトー修道会のロマネスク体文字で書かれたラテン語文書の一部。1098年のシトー修道会設立からわずか半世紀後に書かれた、リヨンのフロルスによる『シトー修道会の本山であるブルゴーニュのシトー修道会におけるパウロの書簡の解説』という中世教父写本の一部である。シトー修道会の写本は、羊皮紙の品質、注意深く書かれた文字、各ページのレイアウトなど、絵画的美しさが高く評価されている。
13. イタリアの写字生による小型聖書の一葉 Example of Gothic script in Latin, on vellum, from an Italian Pocket Bible
  イタリア ボローニャ
  1250年頃 1 ヴェラム
   
  ラテン語でヴェラムに書かれた小型聖書の一葉。用語索引のMとNの項目が、褐色インクで55行にわたって書かれている。赤と青による頭文字や欄外装飾、赤字による章題が入れられている。
14. パリの写字生による聖書の一葉 Example of Gothic script in Latin, on vellum, from a folio Parisian Bible
  パリ
  1250年頃 1 ヴェラム
   
  二つ折り判パリ聖書の一葉。民数記19-21章が50行にわたり黒インクのゴシック体で書かれている。章題および行末装飾には赤と青のインクが用いられ、ペン装飾が施されている。
15. イギリスの写字生による詩篇集の一葉 Example of angular Gothic script in Latin, on vellum, from an English Psalter
  イギリス
  14世紀 1 ヴェラム
   
  ラテン語でヴェラムに書かれた詩篇集の一葉。黒インクによる角ばったゴシック体の文字が17行にわたって書かれている。諸聖人への連祷の一部。青と磨かれた金箔による1行大の頭文字多数。磨かれた金箔地に青と白による2行大の頭文字「C」が1点、詩篇冒頭に入れられている。
16. フランスの写字生による時祷書の一葉 Example of Gothic script in Latin, on vellum, from a French Book of Hours
  フランス
  15世紀中頃 1 ヴェラム
   
  ラテン語でヴェラムに書かれた時祷書の一葉。文章は15行で褐色インクにより、ゴシック体で書かれている。1〜2行大の頭文字は、赤または青のテンペラ地に磨かれた金箔を用い、アカンサス葉と花模様の縁飾りが施されている。祈りの冒頭に、2行大の装飾頭文字「Q」が入れられている。
17. フランスの写字生による時祷書の一葉 Example of Batarda script in Latin on vellum, from a French Book of Hours
  フランス
  15世紀末〜16世紀初頭 1 ヴェラム
   
  ラテン語でヴェラムに書かれた時祷書の一葉。16行の文章が褐色インクにより、バタルダ体で書かれている。赤と青のテンペラ地に、磨かれた金による2行大の頭文字「B」が入れられている。
18. ヘンリー六世時代 Example of a secular court hand script in Latin
  イギリス
  1445 1  
   
  黒いインクで書かれたラテン語法廷文書。John Stocksdenの証書。ヘンリー六世の統治25年目(1445年)の日付入り。
19. ヘンリー八世時代 Example of a secular court hand script in Latin
  イギリス
  16世紀頃 1  
   
   
  褐色インクで書かれたラテン語法廷文書。ケンブリッジGyldenmordenの荘園に関する記録の一部。ヘンリー八世の統治19年目の日付入り。
   
  1.〜19. の解説は雄松堂書店『文字遺産集成 Heritage of Writing』による。
20. Missale Romanum : An illuminated manuscript of Missa
  Latin. : A fifteenth century Ms.
  15世紀頃 1冊 ヴェラム・彩飾写本
   
  ミサ典礼書の規範版のことを『ミサーレ・ロマーヌム』という。ヴェラムに書かれており、頭文字が赤と青で装飾されている。
21. Pa?caraks?
  1836 152  
   
  サンスクリット語で仏典が記されている。19世紀初頭に書写されたもので中央に彩色仏が画かれている。
22. [Pattra]
   
  出版年不明   貝多羅葉本
   
  「貝多羅葉」(ばいたらよう)は梵語pattra葉のことでシュロの葉に似て厚くて固い。これに古来インド周辺の地域では鉄筆などで経文を彫り付けた。
<活版印刷時代>
活版印刷
  ドイツのヨハン・グーテンベルクが1445年頃に発明したというのが定説である。凸版式印刷の1種で、それまでの印刷版が木版のように1枚の板につくられたもので、文字の抜き差しがむずかしかったのに対して、金属の鋳造活字を用い、組替が自在にできるところから「生きた版」という意味で活版と名づけられた。活版印刷術の発明は、印刷物の大量生産を可能として一般民衆に書物を普及させ、文化の伝達を飛躍的に向上させたことで、人類の文化史において非常に大きな功績といえる。
銅版
  版のつくり方は凹版が普通である。製版方法は、彫刻法(エングレービング)と腐食法(エッチング)の2種類に大別され、ともに16世紀頃からヨーロッパで普及した。彫刻銅板画は版面を道具で直接加工し、腐食銅板画は硝酸に対する防食剤を塗布した銅板を針でひっかいて描いた。エッチングは、エングレービングよりもデッサンの自由さがあり、修正も可能であった。
石版
  石版(リトグラフ)は1798年にドイツのA.ゼーネフェルダーによって発明された。石灰石が多孔質で水気を含む性質を利用している。石灰石に脂肪質の材料で描画し、非描画部分に硝酸ゴム溶液を吸収させると非描画部分は水分を保持して油性インクが付着しない。クレヨン、ペン、筆など日常の画材で描くことができる。石版は版面に明らかな凹凸が認められないため平版といわれる。活版、凹版の行われていた世の中にまったく異種の印刷版として誕生し、ポスター、ラベルなど商業印刷方面に広く利用されたが、重量のある石を版材とすること、また、シリンダー状にできないことなどが欠点であった。                                      
   
23. A noble fragment : being a leaf of the Gutenberg Bible, 1450-1455 / with a bibliographical essay by A. Edward Newton
  New York : G. Wells
  14501455 1 活版印刷
   
  印刷術の創始者グーテンベルクが発明した活版印刷術によって世界で初めて印刷されたラテン語聖書。1頁が概ね42行で印刷されているため『四十二行聖書』と呼ばれている。本書はその一葉である。
24. Die zweiundvierzigzeilige Bibel / Johann Gutenberg
  [Berlin] : Idion
  1977 1 鍵付きの本
   
  「四十二行聖書」の複製。
 
<科学・技術の古典>
   
  グーテンベルクの活版印刷術の発明以後、それまで宗教分野の書物が多かったが、さまざまな分野の書物が出版されるようになった。本展示では、科学・技術の分野からそのような資料を選んだ。
   
25. Georgii Agricolae De re metallica : libri XII
  Basileae : [Apvd Hieron Frobenivm et Nicolavm Episcopivm]
  1556 1 木版画・挿絵
   
  アグリコラはドイツの医者、冶金学者。本書はアグリコラがおよそ20年の歳月を費やした16世紀の鉱山冶金技術の集大成である。これは単なる冶金学書にとどまらず、近代技術の夜明けを告げる画期的な技術書である。推定ではなく実際の作業に基づいて描かれた数百枚の木版画も本文に劣らぬ価値を持っている。
26. Libro d'Antonio Labacco appartenente a l'architettvra : nel qval si figvrano alcvne notabili antiqvita di Roma / Antonio Labacco
  Colophon: Impresso in Roma : In casa nostra
  1559 1 銅版画・挿絵
   
  ヴィニョーラはイタリアの建築家。本書は、古代建築の理論書であり、これはその後2世紀にわたって建築学上の経典とみなされた。
27. Theatrvm instrvmentorvm et machinarum Iacobi Bessoni ... / Cum Franc. Beroaldi figurarum declaratione demonstratiua ; [Jacques Besson]
  Lvgdvni : Apud Barth. Vincentium
    1 銅版画・挿絵
  べッソンはフランスの技術家、数学者。近世最初の機械工学書『機械の劇場』(1569年)を出版したが、本書はその1578年版である。
28. Anatomische Tabellen nebst darzu gehNrigen Anmerkungen und Kupfern : daraus des ganzen menschlichen KNrpers Beschaffenheit und Nutzen deutlich zu ersehen / welche den Anfangern der Anatomie zur bequemen Anleitung verfasset hat Johann Adam Kulmus
  Augsburg : Elias Tobias Lotter
  1764 1 銅版画・挿絵
   
  クルムスはドイツの医学者。クルムスの著書『Anatomische Tabellen(解剖書)』はオランダ語に翻訳され、やがて日本に輸入されるや、杉田玄白らはこれを翻訳し、『解体新書』と題して出版し、我国の蘭学ならびにヨーロッパ医学発展の緒となった。
29. Traitテ テlmentaire de chimie : presentdans un ordre nouveau et d'aprs les dcouvertes modernes / par M. Lavoisier ; [Antoine Laurent Lavoisier]
  Paris : Cuchet
  1789 1 銅版画・挿絵
   
  ラヴォアジェはフランスの化学者。本書「化学要論」は彼の研究を集大成したもので、近代化学の原理と方法を定式化し、新しい用語によって述べた古典的著作である。
 
30. Description de l'gypte : ou, Recueil de observations et des recherches qui ont tfaites en gypte pendant l'xpdition de l'arme franaise / publipar les ordres de Sa Majestl'empereur Napolon le Grand
  Paris : Imprimerie impriale
  18091828 28 石版画
  ナポレオン遠征記。ナポレオンは1798年からのエジプト遠征にあたり、軍事的征服の目的の他に、多くの学者、芸術家からなる学術調査団を率いて、学問的な探究を試みている。本書はその調査団の記録によるものであり、さまざまな分野について、石版による精密な図と、解説書から構成されている。
 
 
<様々な装丁>
  書物を綴じる第一の目的は中身を保護することであるが、巻物の形から冊子の形体に代わり、装丁の芸術的要素も見られるようなった。
   
31. Sentiments and similes of William Shakespeare : A classified selection of similes, definitions, descriptions, and other remarkable passages in the plays and poems of Shakespeare / by Henry Noel Humphreys
  London : Longman, Brown, Green, and Longmans
  1851 1 彫刻のカバー
   
  シェークスピアの演劇と詩について。
32. The Taj-Mahal and other historical monuments erected during the Mogul Dynasty / Robert Bignold
  Norwich
  1950 1 ヘビのカバー
   
  タジマハールとモーグル王朝の間に立てられた記念碑の歴史。
 
33. Стихи о Ление / ред. Н. Крюков
  Москва : Художественная литература
  1967 1 豆本7.4×6.8cm
  レーニンやレーニン主義について。
34. Вяра / Никола Вапцаров
  София : нука
  1968 1 豆本5.8×8.3cm
   
  ブルガリアの詩人ヴァプツァロフ(Vap薬ィarov, Nikola キonkov, 1909-1942)の詩『Вяра(信念)』を29の言語によって翻訳されたもの。
35. Сказка о золотом петушке / Александр Сергеевич Пушкин ; рис. П. Банина ; [Pushkin, Aleksandr Sergeevich.]
  Москва : Советская Россия
  1975 1冊 豆本9.0×12.0cm
   
  ロシアの詩人プーシキン(Pushkin, Aleksandr Sergeevich, 1799-1837)の『金鶏物語』。
36. Последние стихи / Михаил Юрьевич Лермонтов
  Стаброполь : Ставропольское книжное издательство
  1975 1 豆本7.5×7.5cm
  ロシアの詩人レールモントフ(Lermontov, Mikhail rdevich, 1814-1841)の詩集。『厳(утес)』他。
 

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更新日 02/05/20
作成:東海大学付属図書館中央図書館(湘南校舎)